【はじめに】
小学校受験は非常に個別性が強く、子どもの性格や生活環境も十人十色ですし、男女差や志望校の違いなども一般化しづらい分野となっている理由かと思います。小学校が重視するポイントや考査内容も年々変わってきている点も、「〇〇しておけば大丈夫」といった対策を立てにくい部分でもあります。
それでも、小学校受験の対策を目的に出版された書籍の中で繰り返し取り上げられているポイントは、個別の学校対策や子どもや家庭の違いによらず、根本的かつ普遍的に重要な部分と言えます。
他方で、共通したポイントが取り上げられている場合でも、それに対するアプローチやアイディアは対策本によりバラバラです。それが各書籍の付加価値となっているのですが、受験対策を実践する立場からすると、時間が限られている中で、断片的な情報ではなく、より体系立てられた情報が欲しいところでもあります。
このような趣旨から「小学校受験対策本25冊をまとめてみた」というシリーズにて、先人の知恵をお借りしつつ、受験対策のみならず心得ておくべき生活習慣などといったトピックについて可能な範囲で体系化を試みたいと考えております。
今回は多くの書籍で小学校受験のポイントとして取り上げられている「家族で季節を感じる体験をする」ことに関して記載していきたいと思います。
季節感のある体験=小学校受験の最優先事項
季節行事? 毎日忙し過ぎてそんな余裕ないなあ
季節行事等を大切すべきという点は、どの受験対策本でも強調されている点ですが、私は当初軽視をしてしまっていました。日々の生活や幼児教室通い、ペーパーもやらなきゃと毎日のやるべきことに追われて「時間があったらやればいいや」と思っていました。実際、小学校受験対策の本を読んでも、ペーパー対策等のテクニックにばかりに気を取られ、「自然に触れる」「伝統行事を大切にする」といった内容のページは読み飛ばしていました。
でも、受験を経験して考えが180度変わりました。
季節に関する体験は絶対に大切にすべきです。そう、絶対に。
ペーパー学習で時間がとれないなら、ペーパーをやめてしまえばいい。
それくらい大事です。
なぜでしょうか。理由は単純です。季節に触れる経験は、小学校受験で必要とされる力の全てに生きてくるからです。非日常の体験を通じた多くの学びの機会となります。
七夕に願い事を短冊に書く、節分に豆をまくという体験をするだけでも記憶に残る経験になります。でも、それだけではもったいない。大事なのは、その経験から派生して更なる学びの機会とすることです。
では、どのような学びの機会となるのかというと以下のような点が挙げられます。
五感を使った体験により、豊かな感受性と表現力が養われる
例えば、春にはお花見で美しい桜を見る、「うれしいひなまつり」を聞く、夏にはキャンプで見つけた昆虫に触れる、秋には銀杏の匂いを嗅いでみる、冬にはおせち料理を食べるといったように、年中行事や季節のイベントは、五感を大いに刺激するものとなっています。五感をフル活用した体験をすることにより、心身ともに感覚が磨かれます。
加えて、体験を通して感じたことや考えたことを自分の言葉にしてみる、或いは絵を描いたり、折り紙を使って飾り付けや道具を自作したりすれば、表現力が身につきます。
例えば、折り紙を使ってひな祭りの雛人形を作ってみれば自然と巧緻性のトレーニングになります。伝統的な行事に関する童謡を覚えて歌ってみれば、リズム感や表現力という点に関わってきますし、正しく美しい日本語を童謡を通して学ぶこともできます。特に絵画については、四季によって様々な色合いに出会うことになり、豊かな色彩感覚が育まれますね。
五感を使った体験により、好奇心が駆り立てられる
そういった直接的な体験は、学びの原点とも言える好奇心を駆り立てます。実際に自分自身で体験してみると、ただ机に向かって勉強している時には出てこないような様々な疑問が生まれてくるはずです。
一例を挙げれば、節分に「柊鰯」を用意してみれば、
ヒイラギはなぜギザギザしているんだろう?
どうして鰯の頭なの?
という疑問が出てくるかもしれません。実際に、柊のギザギザした部分を触ってみたり、柊鰯を見てみなければとそういった疑問は生まれないかもしれません。
そういった体験を一つでも多く積むことにより、知的好奇心は一層育まれていくものと思います。大事なのは、体験を通して生まれた疑問は、図鑑などで調べてみるということです。
新たな知識を得た上で、再度同じような経験をすれば、また別の視点での疑問が生まれてくる、そしてその疑問を調べていくといった「学びの好循環」ができればベストです。
非日常の体験を通して、「自立」と「協調」の精神が育まれ、自信にも繋がる
例えば、夏に山登りやキャンプという経験をすれば、それだけでも小学校受験で必要とされている基礎体力向上に繋がります。
加えて、非日常の体験であることから、前もって計画を立てる必要があります。「自分はどういうことをしたいのか」「どこで何をするのがよいのか」といった点を家族や友人と決めたり、体験を通しても自分の意見を伝えたり、周りとの関わりを考えたりということが必要になります。
また、日本の伝統的な行事・季節遊びにはルールが決まっていることが多いと思います。そのようなルールを理解して、それに従うこと、これも重要なポイントです。例えば、「福笑い」をするといった時に、どういった段取りで進めるのか、目隠しをするには何が必要か等を決めていく必要があります。
日常とは異なる様々な体験を積むことによって、「自立心」と「協調性」が養われるほか、何かハプニングがあった時に対処する問題解決の力が身につくという好影響もあるでしょう。
ペーパー問題で出題される知識に関して、生きた経験から学ぶことができる
実際の経験を通した学びというのは、机上だけで身につけた知識より遥かに価値があります。ペーパー試験だけを考えても、体験による学びは定着度が全く違います。
桜やチューリップが春に咲く花で、あさがお・ひまわりは夏
といった身近な内容は良いとして、意識しなければなかなか出会えない植物・野菜等はその季節毎に意識的に触れておくことによって、質の高い学びとすることができます。実際に経験した物事は、季節の図鑑等で確認するようにすれば、一層理解が深まりますし、体系的な学びとなります。
日本人としてのアイデンティティが養われる
年中行事のほとんどは、日本ならではの伝統行事です。子供に伝統を理解するのは難しくても、成長してから思い出に残りますし、伝統行事を経験していれば自分が親になったときにも行事の大切さを子供に教えてあげられます。保育園や幼稚園を卒業しても、年中行事は続くので幼いときの経験は貴重な記憶として残ります。
何より一番大事なことは、楽しみながら学ぶ機会を作り出せるということです。非日常の経験を通して自然と、かつ家族全員で楽しみながら学ぶ機会、これほど素晴らしいことはありません。加えて、こういった経験を通した学びは、幼児教室では決して身につかないものです。家族のイベントとして、季節毎の体験を積極的に取り入れる、そしてその体験を発展されてさらなる学びに生かしていく、それは小学校受験対策という域を超えて子どもの成長にとって非常に重要な点となります。
では、何をするのが良いのか
では、実際にどのように季節感のある経験を積んでいくかという実践の部分です。大切としたい事項は以下の通りです。
日常での季節感を大切にする
まず大事なのが日常での取り組みです。季節に関わるやり取りを意識して実践することが大切です。
例えば、スーパーマーケットで旬の野菜を見つけて買ってみる、お花屋さんで季節のお花を探してみるというのも良いかもしれません。スーパーで野菜や果物を購入したら、その旬を図鑑で確認してみたり、包丁で切ってその断面の形や色を見てみたり、どのように育つのか、水に浮くか等を実際に試してみると楽しみながら学べます。
また、ペーパーやお教室で忙しい中で、電車やバス、電動自転車を利用して、花壇のお花や公園の虫などは見過ごしてしまうのも仕方ない部分かもしれませんが、できる限り徒歩で自然散策したり、スーパーや八百屋等に一緒に出かけてみるだけでも貴重な学びの機会となるものです。
季節の行事・イベントを取り入れる
幼稚園や保育園でも年中行事は行っていると思いますが、家庭でも積極的に実践することが大事です。少なくとも以下のイベントは押さえておくようにしたいところです。
最低限経験しておきたい季節行事
春:ひな祭り/お花見
夏:七夕/花火/夏祭り(盆踊り)
秋:お月見/紅葉狩り
冬:クリスマス/大掃除/お正月/節分
各行事では以下の点を意識して、より充実した体験になるように工夫します。
・季節毎の料理は、可能な限り子どもと一緒に手作りをする
・飾り付けや小道具等が必要な場合には、折り紙や画用紙等を使って自作する
・各行事に関わる童謡を覚えてたくさん歌う(取り組み時にBGMとして流す)
季節の本を読む
また年中行事を体験する前後で、関連する本を読んでみると、より充実した学びとすることができます。絵本で疑似体験をすること、周辺知識を得ることでより体系的な学習、学んだ事項の定着化が期待できます。
どのような本を選ぶかという点ですが、書店や図書館で関連する本を探して気に入ったものを選ぶのがよいでしょう。
毎月の行事など、季節毎のポイントをまとめて知るには『季節を知る・遊ぶ・感じる 1〜12月のえほん』シリーズがおすすめです。
また、絵本ではないですが、こぐま会から出版している以下の問題集では、季節毎の出来事を題材としたペーパー学習ができるという点で一石二鳥となる使い方ができます。
季節感を身につけるのに役立つアイテム
季節ポスター
季節の物事について学ぶ方法として、季節ポスターを使うのが効果的です。子どもとのお風呂時間での学びや知育を「浴育」と呼ぶらしいですが、忙しい毎日の中で一定時間を確実に確保できる「浴育」で季節について浅く広く知るというのは良い方法と思います。
季節の図鑑
前述した行事での事前・事後での学び等、経験をさらに充実させる、深めるためには、図鑑での学びが欠かせません。特に、以下の図鑑を使用するのが一般的かと思います。親も一緒に学べますし、子どもにも分かりやすい内容となっています。
行事すごろく
日本の行事をすごろくを通して楽しみながら学べるゲームです。家族で何度も繰り返し遊んでいると、自然と行事が頭に入ってきますので、負担感なく知識を身につけることができます。
更にもう一工夫のアイディア
最後に、季節にかかる経験をさらに充実したものになる方法として、以下を紹介します。
子ども部屋に年中行事時に撮った写真か、子どもが描いた季節の作品を飾るというものです。
1年に1回の行事は貴重な経験ですし、その経験をいつまでも記憶に留めておくために毎日必ず目にする部分に飾っておくのが有効です。季節毎に台紙の色を変えて飾っておけば、どの季節であったかひと目で分かります。
写真でなくても、子どもが描いた季節の絵画でも良いかと思います。そういったものを季節毎に分類して、壁に貼っておけば、当時経験したことを年長秋の受験本番に忘れてしまうということを避けられます。
加えて、毎月のカレンダーを自作するのもおすすめです。図鑑や前述の『季節を知る・遊ぶ・感じる ●月のえほん (12カ月のえほん) 』等を参考に、季節感のあるカレンダーを作成して部屋に飾ります。カレンダーでは、毎日のペーパーでの頑張りやお手伝い等、約束事を決めて印やシールを貼る台紙として活用するとさらに良いと思います。
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