怒らない受験術① – 小学校受験とアンガーマネジメント –

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どのような場面で怒ってしまうのか

小学校受験は、父母と子どもの双方にとって重要なイベントであることは言うまでもありません。ペーパー学習や行動観察、面接など、今まで経験してこなかった物事に立ち向かう必要があります。その際、親と子の双方に大きなプレッシャーやストレスが伴います。

とりわけ「小学校受験は親の受験」という言われることもある通り、親の強い関与が求められます。毎日の家庭学習やしつけ、受験校の決定等、日々の仕事、家事育児に追われる中で、プラスアルファでやらなければならないことは非常に多く、大きな負担です。加えて、親自身はお受験のプロでもない中で、例えばペーパーの解き方も未就学児にも分かる言葉で説明したり、志望校の出題傾向やそれに合わせたペーパー学習の進捗管理等もしなくてはいけません。

そのような大きな負担を強いられる中で、一生懸命説明しようとしているのに集中力を欠いている子どもの学習態度であったり、数日前に教えたばかりの単元が模試で不正解であったり、親が怒ってしまう場面は挙げれば切りがありません。幼児教室のペーパーの授業後やテストが終わった後に、「なんでこの問題できなかったの?お家で教えたばかりでしょう?」と怒りを子どもにぶつけている光景を目にすることが頻繁にありました。教室内で怒りをぶつけている親を見かけたことも一度や二度ではありません。

実際、小学校受験を経験した親の多くは子どもに対してきつく叱ってしまった経験を持っています。理英会が受験を経験した家庭約1,000組を対象にアンケートを実施していますが、小学校受験で後悔したことの第1位が「子どもに対してきつく叱ってしまった」というものでした。

~調べてみた~小学校受験をした年長さん1,000人の父母がお受験後に後悔した3つのこと
~調べてみた~小学校受験をした年長さん1,000人の父母がお受験後に後悔した3つのこと

子どもへの悪影響

小学校受験は、中学校受験程ではないにしても、数ヶ月から長ければ2年超に渡る長期戦です。そのような中で、子どもモチベーション継続や良好な親子関係の維持は不可欠の要素です。

ペーパー問題では、机に向かって問題を解くこと自体、経験のない中で、様々な単元の問題が出題されます。体操ではボールつきやクマ歩き、行動観察では蝶々結びや風呂敷包みなど、子どもにとっては新しい挑戦の連続です。そのような新しいチャレンジに対して、成功体験を一つひとつ積んで本番までに一人で出来るようになるというのが小学校受験では大切と考えます。一方、子どもが新しいことに挑戦していく中で、何度も親から怒られてしまえばその度に失敗体験を積むことになります。そうすると、取り組んでいた個別の物事に対して苦手意識を植え付けるだけでなく、子どもの自尊心の低下にも繋がります。

加えて、小学校受験に立ち向かうには親子の信頼関係が重要ですが、頻繁に怒り、怒られることはその関係に大きな悪影響を及ぼします。

怒られることが続くと、「できなかったことができるようになる喜び」から「いかにパパやママに怒られないようにするか」というネガティブな思考になります。幼児教室での様子を観ていても、親の顔色を窺いながら、恐る恐る課題に取り組んでいる子がいることがありますが、子どもが安心して学べる状態でないのは明らかです。

また、親子のコミュニケーションにも大きなマイナスです。「また怒られるのではないか」という過度な警戒感から、子どもは自分の意見や感情を共有するのを躊躇い、場合によっては反抗的な行動をとることもあるかもしれません。このような関係になってしまえば、そもそも小学校受験を継続するかどうか危ぶまれるような状況かと思われます。

アンガーマネジメントという解決策

このような状況は決して他人事ではなく、どの家庭でも起こり得ることです。親子共々、精神的に健全で、良好な関係を維持するための方法として、アンガーマネジメントという概念とその実践方法を紹介します。

怒りの感情自体は決して「悪」ではありません。例えば、「ペーパー学習がうまく行かない」という場合に、「なんでこんな簡単な問題ができないの?」「昨日説明したばかりじゃない??」と怒りを覚えることがあると思います。それ自体は極々自然なことだと思います。「子どもにペーパーが得意になってほしい」「志望校の合格に近づいてほしい」という親としての想いだからです。ただし、それをその感情のまま子どもに伝えた場合、小学校受験においてプラスになることは少ないでしょう。その気持ちを上手くコントロールして、可能な限りポジティブなエネルギーに変換していくことができれば、より穏やかに、より楽しく、受験準備を進めることができますし、自然と良い結果もついてくるはずです。そのための一つの方法がアンガーマネジメントです。

アンガーマネジメントとは

アンガーマネジメント(Anger Management)は、怒りやイライラといったネガティブな感情を理解し、コントロールするためのスキルやテクニックを学ぶプロセスで、1970年代に米国で生まれた心理トレーニングで、野村證券等大手企業の社内研修にも広く取り入れられている方法論です。

アンガーマネジメントは、怒りが感情や関係に与える影響を理解し、建設的な方法で怒りを処理する能力を養うことを目指すもので、「怒らない」状態を目指しません。人間の本能として怒りを感じることは当たり前のことであり、怒りをバネに努力するといったように怒りはモチベーションの源泉でもあります。ですから、「怒り」=「悪」として完全に排除するべきものではありません。アンガーマネジメントが目指すのは、怒りを上手にコントロールすることです。より具体的には、不必要な場面で怒りを表に出して無駄なエネルギーを使わないように主体的に感情を選択できるようになるということです。

また、アンガーマネジメントは不必要に怒りの感情を表に出さないことであって、伝えるはずであった内容を飲み込んでしまうことではありません。怒りに乗せて伝えるのではなく、上手に叱ることで指摘すべきことはしっかりと明確に子どもに伝えることを目指します。

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アンガーマネジメントの実践

では、アンガーマネジメントという考え方をどのように実際の場面で生かしていけるでしょうか。

思わず怒りを感じてしまったときの対処法としてのアンガーマネジメントと、中長期的に怒りの感情と付き合う考え方、つまり根本的な思考法の改善としてのアンガーマネジメントが存在します。

怒りへの対処法

子どもに対して怒らないようにと心に決めていても、怒りの感情が生まれること自体はとても自然なことです。その感情を消し去るのではなく、反射的に感情のまま子どもにぶつけてしまうことのないようにコントロールすることが大切です。

そのために、重要なポイントは、「間をおくこと」と「視点を変えること」の2点です。

間を置く

怒りの感情はいつまでも持続するわけではなく、心理学の研究によればそのピークは6秒間から10秒間と言われています。その時間をいかにやり過ごして冷静になれるかが鍵となります。そのための方法として、深呼吸しながら「1、2、3、・・・10」と数を心の中で数えるという古典的な方法が有名です。その他、この応用として、「100、99、98、・・・91」と100から1ずつ引き算をしていく方法がより効果が期待できます。

その他、「タイムアウト」という方法もあります。子どもに対する怒りを感じた時に、一旦その場を離れて怒りのピークをやり過ごすものです。例えば、子ども部屋で子どもが勉強せずにダラダラとしていたことに怒りを感じた場合、何も考えず子ども部屋からすぐに出てキッチンに行って、冷蔵庫を開けて麦茶を飲むといった具合です。その間に怒りのピークは過ぎ去っているので、間をおくことで感情をそのままぶつけてしまうことを防ぐことができます。「キッチンに行って冷蔵庫を開ける」など、動作を事前に決めておいて、怒りを感じた時に反射的に行動に移せるようにしておくことがポイントです。

視点を変える

怒りの感情が爆発する理由の一つは、「自分の部屋はいつもきれいに整理整頓されているべき」「年長なのだから1時間はペーパーに集中するべき」だといった「〜べき」「〜べきではない」という自分の考え方です。その許容範囲を超えた言動があった場合に怒りという感情が出てくるわけですが、その基準は相当主観的なものです。自分にとって許せないことであっても、子どもはそう考えていないかもしれません。視点を変えて、少しでも客観的な視点を取り入れることで冷静さを手に入れることがもう一つのポイントです。

視点を変えるための実践方法の一つは、自分の怒りの感情を頭の中で実況中継するというものです。例えば、以下のような要領で実況していきます。

「さあ、私が怒り始めました!昨日教えたはずのペーパー問題でまた同じ間違いをした息子に怒っております。『昨日一生懸命教えた努力はなんだったの?!』と言いたげな私、この状況にどう対応するのか見ものです!」

実は、この方法、古舘伊知郎さんの「言葉は凝縮するほど、強くなる – 短く話せる人になる!」で紹介されているものです。古舘さんの実況に脳内変換して実践するとより効果的かもしれません。

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視点を変えるための効果的な方法をもう2つ紹介すると、「寛容力のコツ」の著者、下園壮太さんの「モデルの力」と「7つの視点切り替え法」が参考になります。

「モデル力」というのは「あの人みたいに考えられたらいいな、行動できたらいいな」と思う人をイメージして、そのモデルの人物に成り代わって、自分がうまく対処しているシーンを細部までシミュレーションしてみるというものです。

「7つの視点切り替え法」は以下のような観点から物事を多角的に捉えることで怒りの感情を軽減することに役立ちます。「子どもの立場に立って考えてみる」という「相手視点」までは意識できていると想います。加えて、「出来ない問題は相変わらず多いけれど、半年前に比べれば子どもも成長しているなあ」と⑤の時間軸をずらして考えてみたり、「この苦労話は話のネタにできないかな」と⑦のユーモア視点で考えてみたりという点は特に小学校受験でも役に立つ部分と思います。

① 自分視点 ・私は何が一番傷ついた? ・私は疲れている?  ・私は最近、嫌なことが積み重なっている?・私は相手に何か恨みがあった? ・私がいったことは正しい? それとも思い込み?

② 相手視点 ・相手は何をしたかった? ・相手は何か不安や不満があった?  ・相手は何か伝えたいことがあった?  

③ 第三者視点  ・他の人から見たら、自分はどう見える?

④ 宇宙視点 ・宇宙から(上から)見たら、自分はどう見える?

⑤ 時間視点  ・(たとえば)一カ月後は、部下との関係はどうなっている?  ・(たとえば)三年前は、自分は(部下と比べて)どうだった?

⑥ 感謝視点  ・相手に感謝できるとすれば、どんなこと?

⑦ ユーモア視点  ・この出来事を笑いのネタにするとすれば?

今回はアンガーマネジメントと小学校受験というテーマでアンガーマネジメントの概念と実践方法のうちその場の対処法について記載しました。次回以降、怒りと上手く付き合う方法や上手な叱り方について触れていこうと思います。

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